ある地方都市の調剤薬局での話です。
短期間の約束でお手伝いに行ったのですが、初日から想像を超える展開が待っていました。
事前に、薬剤師1人で回している店舗とは聞いていたのですが・・・
「おはようございます。よろしくお願いします。」
出迎えてくれた薬剤師Kさん(男性:30~40代)とあいさつを交わしました。
ところが、他にスタッフの方が見当たりません。
そのうち誰か出勤してくるのかなと思っていましたが、そんな気配はなく、そのまま開局時間になりました。
・・・そうなんです。
なんとこの薬局は、スタッフが薬剤師1人だけという、「完全ワンオペ薬局」だったのです!
薬剤師が1人の薬局は珍しくないです。
でも、それは「薬剤師が1人」なのであって、他に「調剤事務」と呼ばれる事務の方が何人かいるのが普通です。
ところが、この薬局には本当にKさん1人しかいない。
ちなみに、こちらの薬局は、地域に根ざした内科クリニックの横にあり、1日数十人の患者さんが来局する忙しい店舗です。
全国各地で働いてきて、それなりにいろいろな薬局を見てきたつもりですが、こんなに人手の足りない職場は初めてでした。
なぜそうなったかを尋ねる暇もなく、開局時間がすぎて仕事が始まりました。
そして私は、何もできませんでした。。。
なぜかって?
Kさんが忙しすぎて、コミュニケーションがほとんど取れなかったからです。
Kさんの働きぶり、それはそれはすごいものでした(注:誉め言葉ではありません)。
調剤事務の方がいる薬局であれば、処方せんの受け取り、コンピュータへの入力、お渡しする物(薬の説明や領収書など)の印刷、電話応対などは事務の方がすることが多いです。
薬剤師は薬の調剤と患者さんへの説明に集中できるようにしているのです。
しかし、Kさんは違います。
何しろ1人しかいないので、すべての仕事を1人でこなしていくのです。
その仕事っぷりはこんな感じでした。
➡患者さんが薬局に入ってくる
➡処方せんを受け取る・保険証を確認する
➡薬歴(患者さんごとに作ってあるノートみたいなもの)を、五十音順に並べた棚から取り出す
➡処方せんに記入ミスがないか確認する
➡処方せんの内容をコンピュータに入力する
➡薬の説明書、薬袋(薬を入れる袋)、領収書などを印刷する
➡印刷物をカゴにまとめる
➡薬を棚から必要分取り出す
➡カゴの中に取り出した薬を入れる
➡処方せんの内容と取り出した薬を見比べて、調剤ミスがないか確認する
➡患者さんに今日の薬の内容を説明する
➡薬代をもらう
この他にも
・途中で電話が鳴れば出る
・薬の在庫が少なくなれば、すぐに問屋さんに電話・FAXなどで注文。届いた薬を受け取る
・待っている患者さんから質問があれば、都度お答え
など、何かあれば全て対応しなければならないのです。
一般的な薬局なら、薬剤師・事務合わせて4人くらいで回すレベルの仕事量です。
それを全部1人でやっているんですよ。
しかも、これはあくまでも「患者さん1人」に対してする作業です。
もし患者さんが50人いらっしゃれば、同じことを50回繰り返すことになります。。。
ありえない。
通常なら、絶対ありえない仕事の進め方です。
でも、本当に見たのです(笑)。
Kさんは、この流れをこなしていました。
ワンオペだと並行しての作業ができないので、2人目の患者さんを受け付けできるのは、1人目が完全に終わってからになります。
その分多少の待ち時間はあったものの、見た目に流れが滞ることはなかったです。
でも困ったことに・・・
手伝いに来た私が、ほとんど手出しできないんです。。。
Kさんの頭の中には、こうやってこうやって次はこうするという流れができあがっているんですが、それを知ろうにも、Kさんが忙しすぎて話しかける暇がない。
他にスタッフがいないので、誰かに聞くこともできない。
金魚のフンのように、Kさんの後ろを追いかけるしかなかったです。。。
私は昼休みはきちんともらえていましたが、Kさんは休みもままならず。
ある日、ちょっと時間が空いた時、Kさんが1ℓ入りコーヒーのペットボトルを手に取り、すごい勢いでラッパ飲みしているのを見ました。
忙しすぎて、薬局にいる間は飲み物しか口にしないようになったそうです。
Kさんは経営者ではなく、この薬局の勤務薬剤師です。
当初は他にスタッフがいたそうですが、社長(別店舗に常駐)の態度が悪いために社員が定着せず、いつしか完全ワンオペ体制になったようで。
なぜこんな働き方を受け入れているのか不思議でしょうがないのですが、あまりに忙しすぎると、人は正常な判断ができなくなってしまうんでしょうね。
Kさんの頭の中には、もう私のことなど片隅にも残ってないでしょう。
でも、私には忘れることのできない薬局になりました。
カウンセリングお申し込みを受け付け中です。
こちら をご覧ください。